直球勝負の会社

直球勝負の会社―戦後初の独立系の生命保険会社はこうして生まれた
出口 治明 (著)
昨年5月18日より操業を開始しているライフネットの社長、出口さんの著作。保険業界・業務に明るくない自分でもよみやすく感じた。一貫して伝わってくるのはまさにタイトルどおりの出口さんの「直球勝負」の思い。文章全体が自然体で、読み手の気持ちに変にひっかかることなくするすると沁みこむ。かといって主張がないような丸められた内容では決してない。言葉遣いがカジュアルではないが小難しく感じない。文章が流れるようで読みやすい。ここには出口さんの人柄も多分に影響しているのかなと感じる(直接の面識ないのですが)。このくだりをよんでみて、自然体の人なんだなとわかるし。

P.2
たとえば、5年先、10年先のあるべき姿をまず決めて、そこから、いわば現価に引き戻した形で懸命に努力する生き方もあります。それはそれですばらしいと思いますが、私には、川の行く先が見えないのでそのような生き方はできないのです。私は、毎日毎日を悔いのないように生き、その時々の人々との出会いを大切にしながら、よく食べよく眠って元気に明るく生きていく、言い換えれば「自分に正直に生きていく」ことが、何よりも大切だと思っています。

書かれているのは、出口さんがベンチャー(ライフネット)立上げを決めるまで、そこから実際に立ち上げるまで、立ち上げる中で決めたビジョンとそれを体現するための会社デザイン・オペレーションの工夫、そんな出口さんのこれまでの経験、今後について。
個人的に印象に残ったのはライフネットに対する出口さんの想いと過去の経験からの学び。一部抜粋する。

P.134
現在のライフネット生命は、実質ゼロに近いレベルです。私は、還暦をこえています。100年と言えば、法螺話に聞こえるのは無理からぬことかもしれません。歴史上のいろいろな出来事を見ていますと、人間が願ったことは99%、いや99.9%実現しないと言えると思います。しかし人間が願わなかったことが100%実現しないこともまた事実なのです。そのように考えて、ライフネット生命は100年続く企業にしようと決意したのです。

P.141
本来会社の仕事は単純で合理的なものです。おそらく90%の人が、与えられた課題に対して正しい解を見つけることができるはずです。ところが、現実の世界では、90%の人が正しい解から外れてしまうのです。どうしてかと言えば、仕事の目的以外のことを考慮にいれるからです。つまり、上司がこの発想は嫌いだとか、この案は前回の会議で評判が悪かったとか、ついつい余計なことを考えてしまうからです。私は、可能な限り仕事本来の目的だけを考えようと努めました。それに、どんなに小さな仕事であっても、純粋にその仕事の目的だけを考えて工夫すれば、達成感があり、とても楽しいということもわかりました。この頃から、食事と同じように仕事の好き嫌いはほとんどなくなりました。

P.170
心がけたことの1つにスピードの重視があります。高校の物理の授業で、運動量=質量×速度という公式を習った記憶があるのですが、質量を個人の能力と置き換えると、スピードを増すほうが、相手に与える印象力はまったく違ったものになるのではないでしょうか。私は、特にお客さまに頼まれたことは、他の内部の仕事はいったん忘れて、最優先で回答するように努めていました(もちろん、今もそうしています)。スピード重視は内部の仕事でもまったく同じことです。

P.200
異質の競争を行うためには、社員一人ひとりが、つねに生命保険の常識を疑い、think differentを不断に行っていくことが求められます。そのためには社員一人ひとりの個性を伸ばして自由闊達な社風を作っていく必要があります。言い換えれば、健全な身体に健全な精神が宿るように、社員一人ひとりが、元気で明るく伸び伸びと働けるような職場をつくっていくことが、社長である私の一番大切な仕事であると思っています。社員全員が、ライフネット生命で働くことが心底楽しい、朝起きたら早く会社に行きたいと心から思うようになれば、成功はなかば約束されたも同然だと思うのです。

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