失敗学のすすめ

失敗学のすすめ
畑村 洋太郎 (著)
後ほど。
[2008/2/22 21:50更新]
面白い本だった。
失敗から学べということなのだけど、決して積極的に失敗しろとは言わない。失敗をしないよう最善を尽くしても失敗の確率は0にできないような、未知の領域での失敗こそするべきで、未然に防げる失敗はするなと言っている(勿論失敗の中には人の命に関わるものもあるわけで単純に推奨できるものではないという前提)。
社会・会社組織としての未知の領域での失敗、個人の未知の領域での失敗は、真の学びの機会であり、それを経てそれぞれは大きく成長することができると。
私はこの失敗(期待した結果と異なる結果を得ることとする)から学ぶということは、徹底した仮説思考とリスクマネジメントが役立つのではないかと考えている。
期待する結果(仮説)を明確に描き、それが成り立つためには何がどうなっている必要があるのかを組み立てる。それを検証する過程で仮説と異なる部分があればその結果失敗する。その異なる部分にこそ失敗の原因が潜んでいると考えられ、効果的に学びが得られると考えるからだ。
また、検証活動においては期待通りの結果が得られないことに加えて、検証活動自体が計画通りに行えないリスクがある。発生しうるリスクを把握し、対応をコントロールすることで、悪い失敗(既知の領域のおける不注意等)を排除し、もし失敗するとしても未知の領域の、学びの大きい失敗に近づけることができると考えるからだ。
自分の仕事や日常の中で、どれだけ良い失敗をし、そこから学ぶことができているだろうか。
失敗情報の伝わり方・伝え方を最後に抜粋、一部加筆する(目次より)。こうしてみると目次を熟読することの大切さを感じる。

・失敗情報は伝わりにくく、時間が経つと減衰する
・失敗情報は隠れたがる
・失敗情報は単純化したがる
・失敗原因は変わりたがる
・失敗は神話化しやすい
・失敗情報はローカル化しやすい
・客観的失敗情報は役に立たない
・失敗は知識化しなければ伝わらない
・六項目による記述(事象、経過、原因(推定原因)、対処、総括)

チーム・バチスタの栄光

チーム・バチスタの栄光
海堂 尊 (著)
三谷さんの”観想力”の中で紹介されていたのをきっかけに手にした一冊。amazonにしてもiTMSにしてもそうだがビジネス書等の分野で高いランキングを得ている本で紹介されている本のランクや、音楽でメロディが似ているとうわさになった曲のランクが上がっている。
この本は映画化されたことの方がランキングに対するインパクトは大きいと思うが。
小説は今回久しぶりに手にしたのだけどなかなか面白い。360ページくらいあり、読み終えるのに3-4時間程度かかるのだけど、その世界に没頭できることが気持ちよく、また現実の世界で活かせる学びにも溢れている。
例えば、今回の本で言うと、白鳥の言動から仮説思考を具体的に学ぶことができるし、田口の人間関係の描写から人の機微を学ぶことができる。
学ぶというより感じることができると言った方が適切なのかもしれない。これはおそらくビジネス書からの学びが形式知の吸収であるのに対して、こういった小説からの学びが暗黙知の吸収だと考えられるからだろう。抽象度が高いというのか、何を学ぶのかは読み手次第というのか、そのあたり。
で、学びはさておきと。
病院という世界の組織の壁の高さ、権力への執着の強さ。医師というプロフェッションの持つべきプライド、目的への飽くなき情熱と客観的に事実を踏まえる冷静さのバランス。最高のチームという薄いカバーの裏に潜むひずみ、そのひずみの隙間を縫って動く人間の存在。
人の命を扱うテーマだけに、”面白い”の一言で済ませることができないが、とても素晴らしい作品になっていると思う。
最後に、田口と白鳥、それぞれのキャラクターとそこからの学びを端的に表す言葉を1つずつ抜粋しておきたい。

人の話に本気で耳を傾ければ問題は解決する。そして本気で聞くためには黙ることが必要だ。大切なことはそれだけだ。

大切なのは事実かどうかを証明することではなくて、事実と仮定して物事を動かしていった時に、最後まで矛盾なく成立するかどうか確かめるというやり方をすること。全ての可能性を検討して同時に全てを疑うこと。