ブラックペアン 1988

ブラックペアン1988
海堂 尊 (著)
面白いもので世界に入り込む程に本を読むスピードも上がってくる。そして読み終えた。海堂さん作品5作目。
これまでの読んできた海堂さん作品の中で、もっとも”プロフェッショナル”について学びの多かった作品だと思う。佐伯、高階、渡海、3者それぞれの個性そしてプロフェッショナリズムから学ぶことは多い(一部屈折しているものもあるが)。医療の世界の中で展開される話ではあるが、自分の仕事について考えさせられる。
また20年前の話であり、これまでの作品の中に登場してきた、田口、速見、藤原、猫田、花房、水落、名前だけたまに登場していた坂田といったキャラクターの当時の姿、ポジションを知ることができて面白い。
学びを得た言葉の一部を以下に抜粋する。ストーリーの一部が見える可能性があるので、避けたい方は読み飛ばしていただければと思う。

「必要なら規則(ルール)は変えろ。規則に囚われて、命を失うことがあってはならない」

「わからなければ勉強すればいい。手術場では、最後に頼れるのは自分だけだ。誰も助けてくれないぞ」

「世良君の診断は完璧だ。だが君はもう今では外科医のはしくれだ。単なる読影は外科医にとって必要なことではない。この読影を元にどういう術式を選択し、その時どのような問題が起こりうるか、まで考え、言及しなければいけない。君の読影には、その観点がすっぽり抜け落ちている」

(部分抜粋)
「技術ばかり追い求めるあまり、医療の本道を見失った佐伯外科を正道に戻す」
「どんな綺麗ごとを言っても、技術が伴わない医療は質が低い医療だ。いくら心を磨いても、患者は治せない。」
「心なき医療では決して高みにはたどりつけません」

「手術手技が優れていても、それだけではダメだ。患者を治すのは医師の技術ではない。患者自身が自分の身体を治していくんだ。医者はそのお手伝いをしているだけ。そのことは決して忘れてはならない」

チャンスは刹那のはざまにある。

「世良君は、このままいけばいつしか自分が人を殺めてしまうのではないかとびびって、外科医を辞めようとしている。それは敵前逃亡だ。そこには自分が可愛いと思う利己心しかない」

「弱い人間に対していい加減になれるのは、強くて優しい人にしかできない気がします」

「その時はその時。肚をくくれ。それともお前は、エラーを避けたいというだけの理由から真っ正面から結紮を試みて、患者の命と自分の信念を天秤にかけるつもりなのか?」
(中略)
「それは患者のためを思っての言葉ではない。自己満足のためのいいわけだ」

螺鈿迷宮

螺鈿迷宮
海堂 尊 (著)
海堂さんの作品はこれまでに3冊(『チーム・バチスタの栄光』、『ナイチンゲールの沈黙』、『ジェネラル・ルージュの凱旋』)を読んできた。今回で4冊目となる。
本作にはこれまで主役として登場した田口先生は”ほぼ”登場せず、変わりに医学部リタイア気味の天馬大吉が主役として登場する。キャラクターはおそらく田口先生の医大生時代といったところか。
登場人物それぞれが過去に抱えている闇と今とのキャラクター個人におけるコントラストや、その過去のイベント前後におけるそれぞれの価値観・そのイベントの解釈、そのすれ違いが生じさせる感情の歪み、そして人生の歪み。
それらが医療という人間の死に近いステージで折り重なり、パズルのピースがつながり全体像が明らかになっていくのと並行して、人の死であり心について考えさせられる。
ストーリーの本質とは異なるが、登場する桜宮病院一族からいくつかの学びを得た。

「人は誰しも知らないうちに他人を傷つけている。存在するということは、誰かを傷つける、ということと同じだ。だから、無意識の鈍感さよりは、意図された悪意の方がまだマシなのかも知れない。このことがわからないうちは、そいつはまだガキだ」

「・・・言わないことや言えないことだって、いっぱいあるのよ。それから、尋ねて欲しいと思うこともね」
(中略)
「相手の言葉を百パーセント信じるということは、その人に関心がないのと同じことよ」

「生きるも地獄、死ぬも地獄・・・・・・死ぬも極楽、生きるも極楽、ま、どっちにしても同じことさ」

「ヌシはこの世から闇を無くしたいのだろうが、闇に光を当てれば、隣に別の闇ができるだけ。光には闇が寄りそう。これは普遍の真実。光が強ければ闇も深い。これまた永遠の真理」