リーダーシップでいちばん大切なこと

リーダーシップでいちばん大切なこと
酒井 穣 (著)
まず最初にインパクトを受けたのは酒井氏の考えるリーダーシップだ。僕はこれまでリーダーシップはフォロアーがいて初めて成り立つ現象であり、フォロアーが存在しない時点で何人たりともリーダーたりえない、リーダーシップを起こし得ないと考えていた。酒井氏は、リーダーとなる可能性がある人間の行動と、フォロアーが出現する時間軸のズレの発生を指摘し、行動を起こした際に例えフォロアーがいなくとも、自身の価値観に従った行動であるならそれはリーダーシップであるとしている。
リーダーシップの定義の是非はここでは書かないが、僕は上記を、酒井氏が徹底して”lead yourself”に焦点を当てていると理解した。そしてそれは正しいと思う。リーダーシップの現象を解釈する目的ではなく、リーダーシップで大切なことを伝えるのであれば、そしてその先に個々人がリーダーとして生きることを願うのであれば、リーダーシップの最初にある”lead yourself”について深掘りするというのが適切だと考えるからだ。まず自身をリードし(lead yourself)、その結果人々が惹きつけられ(lead people)、最終的に社会に影響を及ぼす(lead society)という構造で考えれば。確か左記はリーダーシップの旅 見えないものを見る (光文社新書)の中に記されていた。
そして、上記自身の価値観どおりに行動するために必要な知識・行動をアカデミック/自身の経験からの枠組みを持って示している。自身の価値観を理解するためには感情を切り分け、理解すればよいのか。その価値観にそって行動し続けるために、他人でありコミュニティとどのように付き合うべきなのか。そうしてリーダーシップを発揮できなければどのような将来を覚悟する必要があるのか。ではそのリーダーシップを備えるのに必要な知識・行動をどのようにすれば身につけていけるのか。
そして幾つかの部・章の最後には酒井氏が尊敬するリーダーの方々のコメントが掲載されている。
先程エントリーした「思考軸」をつくれ-あの人が「瞬時の判断」を誤らない理由の出口氏と比較しても、酒井氏の口調は一層穏やかで優しい。酒井氏は本を執筆するときに、「将来、なにかに困ったときの娘」に向けて書くことを心情にしていると言われている。その執筆に対するスタンスが、この穏やかさ、優しさの根にあるのだなと感じる。厳しい内容も書かれているが、全体に優しく、愛情を感じる。
心に残ったコメントを幾つか抜粋する。

P.19
結局のところ、ある人物が偉大なリーダーかどうかは、歴史のチャレンジを受けてみないとわからないということです。つまり、リーダーの価値は、現時点で多くのフォロアーがいるか、いないかということでは決められないはずです。

P.20
リーダーというのは、他人がなんと言おうと「孤独」を受け入れて、常に自分の価値観どおりに行動しようとする人々です。

P.32
私にとって、人間のリーダーシップとは、孤独を受け入れ、他の誰でもない、自分自身の人生を誠実に生きる力のことであり、リーダーとは、その力を持っているか、または持とうとしている人のことです。

p.58
人間の自由を規制する価値観は、多様であるようでいて、実際には大きく4つしか存在していないようです。その4つとは次のものです。
・物事や行為が美しいかどうかを決める「美醜」の価値観
・物事や行為が正しいかどうかを決める「善悪」の価値観
・他のことに自分の利益を優先させる「損得」の価値観
・他のことに自分の気持ちよさを優先させる「快・不快」の価値観

P.152
リーダーシップ論のリーダー、神戸大学の金井壽宏教授は、著書リーダーシップ入門 (日経文庫)の中(51ページ)で、リーダーシップの学び方を次の4つのステップで示しています。
ステップ1. 自分がリーダーシップを直接に経験すること
ステップ2. すごいリーダーだと思える人と一緒に仕事をして、その人の言動を観察すること
ステップ3. それらの経験と観察からの教訓を言語化し、自分なりの持論を構築すること
ステップ4. 学者の理論や優れた実務家の持論は鑑賞するように読むのではなく、自分の持論を創出し肉づけするために活用すること

P.157
本当は、そうなれたかもしれない自分と競争しようとすることが、リーダーシップの学習にとって必要不可欠な要素ではないでしょうか。

P.206
人間を人間たらしめているのは、おそらく「心」です。人間のリーダーシップとは、そうした「心」を持った人間を礼賛するものであり、勇気とはそうしたリーダーシップの、最も崇高な発露なのです。

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