[書評]永遠の0

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永遠の0
百田 尚樹 (著)

久しぶりに和書を手にした。小説を読むのも久しぶりであったと思う。600ページ程ありボリュームを感じていたが結果一気に読み終えた。読んだのが夜、自分の家であったこともあり素直に世界に入ることができたのだと思う。終盤は嗚咽しながら読むこととなった。

[以下内容に触れますぼかしていますが。ネタバレ避けたい方とばしてくださいますようお願い致します]

これほど涙を誘われた理由は、宮部が一貫して守り続けていたものの守り方を、最後の最後で変えたところにある。そのシーンに至る前に彼の人物像であり、彼の身であり周囲に起きたことは、彼と関係のあった人物へのインタビューによって断片的に明らかになっている。それらを集めて描かれる宮部の人物像はそのような選択をするそれではないのだ。そのはずなのに最後の最後で彼は選択をする。

なぜそれを選ぶのだ。

という気持ち、一方でその環境にあればそれも致し方ないのかもしれないという理解、しかしそれでもなぜ、という気持ち、それらの整理をつけきれないうねりが涙を流させたのだと思う。

冷静に考えれば、なぜ宮部があれほどの強い意志をあの時代において当たり前のように持ち続けられたのか、そしてなぜ最後にそれを向ける方向を変えたのか、そこに触れる部分が記されていない。そここそ最も気になる2つの点であったのに。それでも物足りなさを感じさせない一冊であった。

宮本武蔵に憧れ、空戦において自身が最も強いと考え、それを示すためだけに戦う人物が描かれる。それはまさにバガボンドで描かれる宮本武蔵であり、若かりし頃の柳生石舟斎であり胤栄でありに重なり、彼と宮部との模擬戦において宮部は上泉伊勢守秀綱に重なる。

そして、生きることの尊さ、自身のためのみならず自身の大切なもののために生きることの尊さと強さを感じた。フィクションだが、そういった生き方の許されない時代があったこと、それを経て今自分が生きている日本があることを学ぶ必要があると感じた。