武器としての決断思考

武器としての決断思考
瀧本 哲史 (著)
ディベートの手法をベースに自分で考え、自分で決めて人生を歩むことを説いている一冊。メリット、デメリットをどのように捉えるのか、そしてある主張に対してどのように問いを投げかけより良い理解を得るのかが具体的に示されている。
”武器としての”というのがいいネーミングだと思う。
ここで紹介されている内容は、あくまで自分の人生を自分で決めて歩むためのツール(武器)の1つであり、これだけが全てではない。そして、それをつかうこと自体は目的になり得ない。ツールについては、よく板に途中まで打ち込まれた釘の話を聞く。もし手元に金槌があればそれを打ち込もうとするだろうし、釘抜きがあればそれを抜こうとする、というものだ。ツールがその人の行動(意思決定)に対して与える影響を簡単に表現する話だと思う。
ディベートの手法でいうなら、何でもかんでもメリット・デメリットを洗い出し、そのために対象へツッコミを入れれば良いというものではないということだ。
その先には自分の選択(決断)があり、その選択にコミットした行動がある。そしてその行動が自分の生きたい人生に自分を重ねるものでなくてはならない。ここをなしにこの武器をつかうことを目的化してしまっては本末転倒だ。
本の終盤に良いことが書かれている。

P.236-237
最後の最後は「主観で決める」(中略)ディベート思考とは、客観を経て、主観で決断する方法です。最初から主観的にものごとを決めるのではなく、一度、客観的に考えてみてから、最後は主観を持って決める。(中略)価値観や哲学の問題には、自分自身で決着をつけるしかありません。(中略)事実に対する判断や予想は、議論を重ねていくなかである程度、収束していきます。ただ、最終的にどのメリット、デメリットを優先するか、重要視するかという「決断」には、何度もくり返すように正解がないのです。(中略)なんらかの絶対解や真実を求めようとすることは、「誰かの決めた決断」や、すでに役割を終えた「古い意思決定」に頼ってしまうという、もっとも危険な考え方、そして生き方につながります。

主観なくただメリット・デメリットを洗い出して比べるだけなら、如何に精緻に洗い出すことができてもその人の人生に一切の価値を生まない。比べるだけでは行動が変わらないからだ。行動が変わらないというのは比べないのと同じ人生を歩むということだからだ。
客観的のみに判断を委ねては自分の人生は歩めない。客観的な分析だけで100%白黒つく問題はシンプルなものだ。自分の人生、歳を重ねる程ステークホルダーも増えるし生きる世界も複雑化する、で決断を迫られる問にシンプルなものは少ない。問を分解してもそうだと思う。どれだけの材料が集まったら、それをどう解釈し、不確実な部分をリスクとして引き受けて前に進むのか、これは主観で決めなくてはならない。
往々にして、この本で紹介されている武器もそうだが、客観的な思考に磨きをかけると、一度主観を失う段階が訪れる。客観的に分析する能力が磨かれるし、それは同時にどのような不確実性が潜んでいるかを自分に知らせるようになるからだ。
そしてその不確実性を磨かれた分析能力で解消しようとし続けるからだ。
必要なことだ。しかし不確実性を取り除くためのリソースは有限だ、人生は有限だ。
この能力はあくまで自分で考え、決断し、自分の人生を歩むための手段の1つだ。使うことは目的ではない。
このことを忘れずに、自分もだが、持っている武器を磨き、活かしていきたいと思った。
印象に残った部分をいくつか以下に抜粋する。
#以下に加えて、終盤のパスカルの言葉には感動を覚えた

P.27
実学の世界では、知識をもっていても、それがなんらかの判断につながらないのであれば、その知識にはあまり価値はありません。そして、判断につながったとしても、最終的な行動に落とし込めないのであれば、やはりその判断にも価値はないのです。

P72
世間では、ブレない生き方がやたら賞賛されていますが、「ブレないこと」自体に価値はありません。

P.103
メリットの3条件
1. 内因性(なんらかの問題があること)
2. 重要性(その問題が深刻であること)
3. 解決性(問題がその行動によって解決すること)

P.111
デメリットの3条件
1. 発生過程(議題の行動をとったときに、新たな問題が発生する過程)
2. 深刻性(その問題が深刻であること)
3. 固有性(現状ではそのような問題が生じていないこと)

p.205
発言で強調されているポイントは実は重要でない可能性があるということ。
 どういうことかというと、たとえばIR説明会(企業が投資家に向けて経営状況などを報告する会)で、「我が社は3年連続、売上40%アップです」と言っていたら、「売上」ではなく「利益」が問題なときがあるということです。実は3年連続で減益だったということがよくあります。
 つまり、会社にも立場があるので、言いたくない情報は隠し、どうでもいい情報は誇張することが多い。これは個人においても同じことです。

P.206
相手が一般論を語り出したら、例外を聞くようにしてください。

P.208
バカをよそおって、知らないふりをして、話全体を自分の知りたい方向性へ持っていくのが、優秀なディベーターの条件になります。

コメントを残す