世界は分けてもわからない

世界は分けてもわからない
福岡伸一 (著)
生物と無生物のあいだがとても好きだった(過去エントリー)のでこの著作も手にした。
面白いところもあるのだけど、自分の中で話を繋げるのに少し苦労するかもしれない。いくつかの話が散らされているのと内容が専門的なところから。わかりやすい例えは常に配慮してちりばめられているのだけども。プロットが不安定というか、メッセージが絞りきれていないというか、という印象。
とはいえ、自身の専門分野の話を、それ以外のテーマ(芸術・歴史etc…)と結びつけて、かつ素人でも何とかイメージしながらついていけるだけの例えを盛り込んで本にできるというのは本当にすごいことだと思う。
途中と最後は引き込まれた。
印象に残っている言葉をいくつか抜粋。

P.85
生命をかき分け、そこだけ取り出して直接調べるという、一見、解像度の高いインビトロの実験。しかし、インビトロの実験は、ものごとの間接的なふるまいについて何の情報ももたらしてはくれません。ヒトの細胞はそこでは全体から切り離されているからです。本来、細胞が持っていたはずの相互作用が、シャーレの外周線に沿ってきれいに切断されているのです。

P.104
絵柄は高い視点から見下ろしたときだけ、そのように見えるのであり、私たち人間は、そのような絵柄として生物を見なしている。心臓の細胞は、心臓の形や大きさを知らない。心臓の細胞は、自らが一個の細胞から出発してできた個体の一部であることは知っているかもしれないが、心臓の一部であることを知らない。なぜなら心臓とは、われわれマップラバーが人体を見下ろしたときに見える絵柄に過ぎないからである。

P.112
胴、というものが幼児に見えないことはそれなりに興味深いことだが、それ以上に、二歳か三歳の子どもであってもすでに、顔には、目、鼻、口といったパーツの存在を認めているという事実に驚かされる。

P.126
でもプラスαはある。一体、プラスαとは何だろうか。それは実にシンプルなことである。生命現象を、分けて、分けて、分けて、ミクロなパーツを切り抜いてくるとき、私たちが切断しているものがプラスαの正体である。それは流れである。エネルギーと情報の流れ。生命現象の本質は、物理的な基盤にあるのではなく、そこでやりとりされるエネルギーと情報がもたらす効果にこそある。

P.274
この世界のあらゆる要素は、互いに関連し、全てが一対多の関係でつながりあっている。つまり世界には部分は無い。部分と予備、部分として切り出せるものもない。そこには輪郭線もボーダーもない。
(中略)
世界は分けないことにはわからない。しかし、世界は分けても分からないのである。